信託受益権ー資産承継における遺言書と家族信託の違い

肖像画が飾られた客間に置かれたオリーブ色のソファセット

所有権絶対の原則

民法の基本原理・原則のひとつに所有権絶対の原則があります。
所有権絶対の原則とは、所有権者は、その所有物を自由に使用・収益・処分することができ、これを侵害する者に対しては、その侵害を排除することができるという原則です。

民法で後継ぎ遺贈が認められない理由

遺言書で所有権者が変わると

遺言書で資産承継するとき、不動産登記においては「相続を理由として所有権が移転した」という意味となります。
一旦所有権が移転すると、所有権絶対の原則により、「現」所有権者しかその資産の扱いや処分を決められなくなります。
つまり、被相続人は「前」所有権者になってしまうので、「次にその資産を継がせたい人物を指定する」といった希望は通らなくなります。

信託財産は信託受益権という権利となり受益者に引き継がれる

家族信託で所有権者が変わると

信託受益権とは、受益者が信託財産から発生する経済的利益を受け取る権利のことです。

信託には、所有権という財産権を信託受益権という債権(権利)に転換する機能があります。
信託の権利転換機能を用いて、所有権絶対の原則の適用を排除することにより、「後継ぎ遺贈」の形を取ることができます。
後継ぎ遺贈型受益者連続型信託は、委託者に指定された人物の死後には、信託受益権という権利は消滅して相続人に渡らないようにしているので、委託者が次々受益者を指定できるようになっています。

信託受益権と遺留分侵害額請求

後継ぎ遺贈は遺留分を侵害するのか

信託受益権はみなし相続財産として民法上、遺留分の対象にならないという説がかつてはありました。
しかし、平成30年9月、東京地方裁判所は遺留分を回避するための家族信託は公序良俗違反により無効であるとしました。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託における信託受益権の引き継ぎが、他の相続人の遺留分を侵害するものなのかはこの判決で判断はできませんが、少なくとも遺留分の潜脱を目的とした家族信託は避けるべきと考えます。